しごと日記

朝刊の話 [1] (2010年6月号掲載)

 当ASAではたくさんの新聞や雑誌・出版物を配達しています。
  一般紙が、朝日新聞、東京新聞。 日刊スポーツ、東京中日スポーツなどの新聞や、ヘラルド朝日、ジャパンタイムズ、ニューヨークタイムズなどの英字紙、お子様向けの小学生新聞、週刊碁などの趣味の新聞、自動車新聞や電波新聞などの専門的な新聞など、日刊・週刊・月刊合わせて2010年6月1日現在、20種類以上あります。
  午前1時半頃、各社のトラックが新聞を積んで販売店に到着するので、従業員もその少し前に出勤してきます。最初の仕事がトラックからの新聞の荷降ろしです。
  皆様の中には、発売前の本や雑誌がビニールで包まれた固まり(梱包)の状態で書店やコンビニの床に置かれているのをご覧になった方もあるかと思います。印刷工場から配送されてくる新聞も、まさにその状態で販売店に届きます。60〜100部ずつビニールに包まれた固まりが、合計50個ほど販売店内に積み上げられるのです。
  荷降ろしが終わると、ベテラン社員が、各配達エリアごとに新聞を分けていきます。朝日新聞は3,000部以上ありますが、配達中の破損などの差し替え用としての予備は10部程度しかないので、正確に手早く分けられます。
  配達員が各自配達に必要な梱包を開封し、取り出した新聞に折込チラシを挟みこみます。折込チラシが入るのは朝日・東京の一般紙2紙だけです。はみ出しが無いように、きれいに揃え直すと、お届けする「新聞」の出来上がりです。
  ちなみに、この“新聞”、1人の配達分を積み上げると高さ3m以上になります。

朝刊の話 [2]  (2010年7月号掲載)

  前号では、深夜(早朝)、印刷工場から配送されてきた新聞に折り込み広告を挟みこみ、出発の準備をするところまでをご紹介しました。今回は、この続きをご紹介します。
  各自バイクに新聞を積み終え、ほぼ準備が終わるのが午前2時頃。出発前にもう一度、お留守やお引っ越しで配達件数の変更がないかをチェックします。新聞の部数は、各エリアの担当者が細かく管理していて、ちょうど配達件数分しかバイクには積まないのです。
  予備はないので、配達が終わると、きれいに新聞もなくなる仕組みです。届け忘れがあれば新聞が余るので、どのお宅に届けていないかを探し回りますし、間違って配ってしまうと新聞が足りなくなってしまうので、これもまた探し回る羽目になります。
  そういったことがないように、出発前の部数や配達先の変更のチェックには細心の注意を払います。特に、スポーツ紙や英字紙などの一般紙以外の新聞は、販売店に一部も予備がありません。朝刊の配達中、たまに千鳥足のお父さん(午前様)に「新聞1部売ってくれよ(主にスポーツ紙)」なんて声をかけられることがありますが、丁重にお断りしています。スポーツ新聞を酔っ払いのお父さんに渡してしまうと、本来配達されるべきお客様の分がなくなってしまうのです。
  こうして配達前の準備が終わると、さあ出発です。新聞を積んだバイクが西へ東へと一斉に駆け出していきます。
  配達員が出発した後の店内には、留守番が1人だけ残ります。嵐が過ぎた後のような雰囲気で、一時的な静寂に包まれます。

朝刊の話 [3]  (2010年8月号掲載)

 前回、朝刊の仕度を終えた配達員たちが、西へ東へと飛び出していくまでを紹介しました。
 各々が自分の地域に向かい、一軒目にたどり着いたら配達の開始です。配達は、「順路帳」という、いわば新聞屋さんの虎の巻を見ながら配ります。
  B5サイズを縦に半分切った手帳(ちょうど、なつかしい「大福帳」を思い浮かべていただければ)のようなもので、実はこれで何百軒という読者宅に新聞を間違いなく配ることができるのです。読者名と購読紙の銘柄、それと読者宅を表現する「順路記号」というものが書いてありますが、丁目・地番などいわゆる「住所」は一切書かれていません。この記号を読み解きながら、配達先をたどっているのです。
  たとえば、イラストのように、一軒目の佐藤さんが朝日新聞、佐藤さんの“トナリ”の林さんが朝日新聞と日刊スポーツ、林さんの“ハスムカイ”の山田さんが東京……という具合に、およそ20種類の記号を見ながら、読者宅に新聞を届けているのです。
  前のお宅から、記号にしたがって進んでいけば、必ず次のお宅に行き当たるという仕組みです。当然、間違った記号にしたがっていけば、とんでもないところに行き着いてしまいますし、転居や留守での配達先の変更が常に更新されていなければ、正確な配達もできなくなってしまいます。
  各エリア担当者は、毎日配達するうちに自然と暗記していきますが、担当者の休みの日に代わりに配る配達員や新入社員は、順路帳が欠かせません。エリア担当者も、春先や正月のような、お客様の入れ替わりが激しい時期には、順路帳を見ながら配達しています。
  入社して最初に習うのも、この順路記号の読み方で、まさしく新聞屋さんの基礎です。この記号、全国(全新聞?)共通ですから、これさえ知っていれば、全国どこに行っても配達することができます。
  ちなみに、この順路帳にしたがって配達をしていくと、ちょうどエリアの中をほぼ一筆書きに近い形で一周できるようになっています。袋小路や狭い路地以外は、できるだけ夜中に同じ読者宅の周りをバイクで何度も通らないように作ってあるのです。

朝刊の話 [4]  (2010年9月号掲載)

 今回で、朝刊の話も最終回です。
  配達員たちは、一人あたり毎日約350軒のお宅に新聞を配達しています。以前にも紹介しましたが、積み上げると高さ3メートルにもなる新聞の山は、一度にバイクに積めるような量ではありません。曜日や天候によっても違いますが、一度に積めるのは大体150部前後です。最初に150部程度の新聞をバイクに積み、配達に出ます。配り終わったら店に戻り、残してある150部を再度積みます。こういった作業を2〜3回繰り返しながら配達をしています。
  最初に積んだ新聞を配ることを1回戦、2回目を2回戦と言っています。一年で一番新聞が厚くなるのは、元旦の朝刊です。このときは一度に50〜60部しかバイクに積めず、5〜6回戦になってしまいます。
  早起きの奥様、ご主人様の中には、すぐとなりまで近づいて来た新聞屋さんのバイクの音が自分の家の前でUターンして遠ざかっていき、「今日はうちに配達するのを忘れたのかな?」と思っていると、しばらくしてからポストに新聞が届く音が聞こえ、「あれ?届け忘れじゃなかったんだ」と思われたこともあるのでは……。そんな時は、バイクに積んだ配達用の新聞がなくなり、2回戦目を補充しに店に戻っているのです。
  その新聞をすべて配り終えると朝刊の配達の終了です。
  お客様をお待たせしていないか配達員もドキドキしながら配達しています。なかには、朝早くからポストの前で新聞を待っているお客様もいます。
  ――「おはようございます!」 一日の始まりです。


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