小さな散歩道

ぬめり坂(大田区南久が原1―25と2―30の間の道)


藤森稲荷神社の鳥居

藤森稲荷神社の狛きつね

庚申塔。右の坂道がぬめり坂
左に行くと「昭和のくらし博物館」がある

ぬめり坂の道標

 東急多摩川線下丸子駅下車。改札を出て左の踏切を渡り大田区民プラザを右に見て進む。環八に突き当たったら左に。藤森稲荷前信号の横断歩道を渡る。道が二手に分かれるところが起点となり、右のくの字に曲がる140メートルがぬめり坂だ。登り始めてすぐ、左手の高台に藤森稲荷神社が見えた。参道の入口は、幅が狭い上に車も行き交う道に面していて、社殿に登る階段も急坂だ。


藤森稲荷神社

 登ってみると、平らなところに大木に囲まれた本殿があった。その前に鎮座するのは狛犬ではなく、狛きつね。それも、よく見ると白いレース模様の入った赤いあぶちゃんを首にかけていて、おしゃれなおきつね様だ。お参りを済ませ、一礼して、ぬめり坂に戻る。

 さらに坂を上ると、左右に別れる道の分岐点に庚申塔(造立1677年)が建っていた。ちょっと今風な建物に納まった庚申塔で、青面金剛像(しょうめんこんごうぞう)に3匹猿の図柄。青面右寄りには「奉造立庚申供養為二世安楽」とあり、左寄りには年代と「武城南荏原郡六郷庄鵜木村」と彫ってある。

 
庚申塔(左)と青面金剛像(右)のアップ

 いろいろ調べてみると、ぬめり坂は呑川低地から久が原台を越えて多摩川低地に下ってくる坂道である。そして、この道はかつての鎌倉街道のひとつ下道でもある。鵜の木八幡神社前の古道がこの鎌倉街道に合流するところに、ぬめり坂の庚申が立っている。
 ぬめり坂の坂上の標高は15メートル。庚申塔は11.5メートル、環八辺りは7メートル。人は多摩川低地に下り、平間(ひらま)の渡し(現在のガス橋付近)で多摩川を渡った。
  坂を上った所にはぬめり坂の道標があるが、文字は読めない。『大森区史』(1932〜47年に存在)によると、この坂には悲しい言い伝えがあった。

 昔は、なだらかな坂でも、その名の通り足元がぬめって上るのが容易ではなかった。近くに住んでいた豪家の娘が坂を歩くのに難航する人々をあわれみ、自ら生き埋めになったという。その後、往来は楽になったそうだ。一般的に青面金剛像は二匹の鬼を足で踏みつけているのだが、この像の足下には鬼はいない。像の作者が犠牲になった娘さんのことを気の毒に思ったのだろうと書かれている。

 昔は、多摩川は東急多摩川線のあたりを流れていたらしく、このあたりは低湿地で大雨が降ればすぐに坂がぬめったから、ぬめり坂という名はそこからつけられたようだ。

 庚申塔前の道を左に行くと、「昭和のくらし博物館」という案内があったので足を伸ばしてみた。左の鵜の木特別出張所の前の路地を右に入ると、左に引き戸の門構えの家が博物館だ。現在館長を務める小泉和子さん(1933年生まれ)が、ご家族と暮らしていた木造2階建て住宅(昭和26年建築)を戦後の庶民のくらしの資料として、中の家財道具ごと公開している。ガス、水道もない、プラスティックもない時代の暮らし――台所には木の冷蔵庫、茶の間にはちゃぶ台、ラジオという昭和のくらしが残されている。
  ぬめり坂を散歩の折にはぜひ寄ってみてほしい。

(左)「昭和のくらし博物館」入口

 

 

■登録有形文化財「昭和のくらし博物館」(TEL/03-3750-1808)
開館時間/10時〜17時、金、土、日、祝日
     (年末、年始、9月上旬は臨時休館)
入館料/大人500円、小〜高校生300円

(2024年11月掲載)  地図


小さな散歩道 目次へ 前へ  次へ