小さな散歩道

富士見坂とどりこの坂 (大田区田園調布1丁目)

  読者の方の推薦で2つの坂を歩く。

 
富士見坂
(左) 上ったところから後をふりかえり道標を写す (右) 途中曲がっているのが分かる

 まず富士見坂から。東急東横線多摩川駅下車。改札左ある田園調布せせらぎ公園のフェンス沿いを南へ(沼辺駅方面)歩く。東横線の踏切の西、北北東に向かって田園調布富士見会館まで曲がりくねって上る坂通が富士見坂だ。大正末期ごろより行われた耕地整理によってできた坂道で、坂の長さは220メートル、高低差15メートル。
  当時はここから富士山がよく見えたので、富士見坂と呼ばれるようになったそうだ。現在は坂の北側は樹木の緑が美しいが、南側はマンションが立ち並び富士山は見えない。

 
どりこの坂
(左) 下りてきた坂をふりかえる  (右) 下り坂の途中。左がせせらぎ公園、右は民家の塀

 どりこの坂は富士見坂を登り切ったところを左に。せせらぎ公園の東門を過ぎると、大田区田園調布1丁目26番と51番の間を左に下りる坂道がある。これが「どりこの坂道」全長130メートルの緩やかな坂。高低差3メートル、平均斜度1.3度、くの字に曲がる。

  坂名の由来は昭和の初め頃、坂付近に「どりこの」という清涼飲料水を開発した医学博士・高橋孝太郎の屋敷があったので「どりこの坂」と呼ぶようになったそうだ。それまでは、池山の坂と呼ばれていた。

  「どりこの」という変った清涼飲料水の名称は講談社の創業者・野間清治が戦前、経営多角化の一環として発売したもので、「どり」は共同研究者だったドイツ人のイニシャルから、「こ」は孝太郎、「の」は助手の野口からとって命名したと言われている。「どりこの」の主成分は果糖とブドウ糖で透明感があり琥珀色をしていて味はほんのり甘く、薄めて飲んだそうだ。1931年に爆発的に売れたが、大戦の砂糖統制令で製造中止に。

(2021年7月掲載)


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