小さな散歩道

多摩川台公園古墳展示室  (大田区田園調布1丁目)


多摩川台公園入口すぐ、
公園事務所の隣にある「古墳展示室」

展示室に入ると、右手に
当時の人々の「墓前祭」を再現した人形がある

横穴式石室の中は展示スペースになっている

石室内展示の中央、
木棺に埋葬された首長を再現した人形

 国指定史跡の亀甲山古墳や都指定史跡の宝莱山古墳など、4世紀から7世紀に造られた古墳10基が園内に点在する多摩川台公園は、東急多摩川線多摩川駅から徒歩5分ほど。駅から田園調布方向へ行くと、公園の標識が見えてくる。2本目の道を左折し、緩やかな坂を登ると公園の入口に着く。

 公園内には自然林の遊歩道やあじさい園などの他、晴れた日には遠くの丹沢山系や富士山が見える多摩川八景の眺望を楽しめる展望広場などもある。

  見所豊富な公園だが、実は構造的には古墳群の上に位置している。多摩川下流域左岸の大田区田園調布から世田谷区野毛の地域に広がる荏原台古墳群の大田区側、田園調布古墳群の中にあるのだ。そのため、古墳(墓)の実物大レプリカや、古墳が造られた当時のようすを再現した人形など、古墳時代をわかりやすく解説した古墳展示室(入室無料)が、公園入口横の公園管理事務所に併設されている。
  展示室中央に、築造当時のままに復元された全長約60メートルの前方後円墳がある。横穴式石室の入口があり、内部に入れるようになっている。


展示室中央には、復元された実物大の古墳

  古墳内部も気になるが、その手前、展示室入って右手に並んでいる5体の人形が目に留まった。説明板に「マツリの風景『墓前祭』」とある。墓前祭は、亡くなった前首長の葬送の儀式だけでなく、新首長の即位を広く人々に知らせるための、世代交代を執り行う儀式でもあり、石室の前で、巫女がとりしきり、楽人たちが音楽を奏でた。人形はその古代の祭の場にいた人々、大刀を持つ女、巫女、新首長、琴を弾く男、太鼓をたたく男を再現している。髪形や衣装が1人1人違い、呪術的な意味か顔に赤い隈取をしているが、その模様もまたみんな違う。これらの人形は、主に群馬県の塚廻古墳から出土した埴輪を参考に、資料や文献などを調べて作られているそうだ。顔に赤い隈取をして、男女違った髪形に結い、それぞれ祭りの衣装を纏った古代人を立体的に再現したものは珍しい。

  古墳内部の横穴式石室に入ると、両側に埋葬品や出土品など(レプリカ)や資料類が展示され、部屋の中央には木棺が置かれていた。中には埋葬された先代の首長の人形が、盛装して副葬品と共に入っている。全てが“再現”で、衣装などが綺麗なままなので、人形たちと同じ時代にいるような、まるで古代人になったような気分を味わえる。

  石室の出口付近に古墳の断面図のようなものがあり、細い横縞が地層のように重なって模様になっている。古墳を築造する際、盛り土が流れないように赤土と黒土を交互に積み重ねた、その再現だそうだ。
  展示室内の照明は、1日の日の出と日の入りをイメージして、明るくなったりちょっと暗くなったりしている。展示室を一周して再び墓前祭の展示前に戻ると、人形たちの背景に遠く富士山が描かれていることに気付いた。
  古墳時代の日本へ、ちょっとしたタイム・スリップを体験できたひとときだった。

■多摩川台公園古墳展示室 (大田区田園調布1-63-1) 
開館/9:00〜16:30 (入室は午後4時まで)
休館日/ 毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は開室)と年末年始
問合せ/多摩川台公園管理事務所 TEL:03-3721-1951 

(2019年2月掲載)  地図


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