小さな散歩道

「ガス橋」 (大田区下丸子〜川崎市中原区)


川崎市側の橋のたもとからガス橋を見る。対岸のビルはキャノン本社


生活路として東京と川崎を結ぶガス橋とキャノン本社

ガス橋中央が、東京都(大田区)と
神奈川県(川崎市中原区)との境界線

平間駅からガス橋に向かう途中にある八幡神社

多摩川沿いの大田区側の遊歩道「二十一世紀桜の並木」

  東京都大田区下丸子と神奈川県川崎市中原区上平間の間に架けられた「ガス橋」。最寄駅のJR南武線平間駅のある神奈川県側から行ってみた。

  「ガス橋」という名称が面白い。かつて東京ガス株式会社が鶴見製造所で製造したガスを東京に供給するために、巡視用も兼ねてガス橋の前身「ガス人道橋」が造られたことに由来するという。 1931(昭和6)年開通、1936(昭和11)年にガス管が増設された。戦後、増大する交通量に対応するため、また地域住民からの要望もあり1960(昭和35)年現在の「ガス橋」が完成した。全長は387メートル。

  てっきり通称名か、愛称のようなものかと思っていたら、平間駅から橋へ向かう東京都道・神奈川県道111号線の途中の交通標識に、大きく「ガス橋」とあった。また、通りの名称標識にも「ガス橋通り」とあり、地元ではすっかり定着している固有名詞なのだとわかった。

  かつて、ここには「平間の渡し」があったが、ガス人道橋の架設で廃止されたそうだ。平間道を通す渡しで、東海道の間道であり、野菜などを出荷する生活路でもあったとか。ガス橋通りでは、長い年月風雨に晒され、表面が磨耗して文字が判読できないような、古い路傍の石碑も見かけた。昔から、人や物が行き交う場所として栄えていたのだろう。

  ガス橋通りにある八幡神社の境内には、「アミガサ事件集結の地」という説明板があった。1914(大正3)年、多摩川の度重なる氾濫に苦しんでいた沿岸住民たちが、集団で築堤要請を県知事に訴えた。当時は大勢で行動することが許されなかったため、全国的なニュースになったそうだ。

  そんな歴史のあるガス橋だが、今は地元の人たちにとって生活の道。車や自転車の行き来が絶えない。橋の両側は歩道になっていて、ジョギングコースにしている人も。大きな橋梁によくあるアーチ型の鉄塔のようなものがなく、左右両方、多摩川の上流と下流がずっと見渡せて、視界を遮るものが無くとても見晴らしがよい。
  欄干の手すりの高さは1.2メートルぐらいなので、大人でも小柄な人ならゆうに下をのぞき込むことができるが、結構な高さがあるので、高所恐怖症の人はやめておいた方が良さそうだ。


ガス橋からの多摩川の眺め

  訪れた日は気持ちの良い小春日和だった。多摩川の川面には水鳥たちの集団もいて、何気なく川を眺めていると、急に水音と共に水面が一瞬光った。よく見ていると、それは魚が飛び魚のように、水面を跳ねているのだった。高い橋の上からもそれとわかったので、そこそこ大きな魚のようだったが、何の魚かは確認できなかった。

  ガス橋がかかる多摩川河川敷は、川崎市側も大田区側も公園や運動場として、市民の憩いの場になっている。大田区側は「多摩川ガス橋緑地」として整備されて、川沿いの遊歩道は「二十一世紀桜」の並木道になっている。桜の並木は橋を渡った先の大田区側の111号線にも続いていて、桜のシーズンには多摩川の眺望と合わせて楽しめそうだ。

(2018年11月掲載)  地図


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