小さな散歩道

羽田神社 (大田区本羽田3丁目)


夏の例大祭に向け、ポスターや提灯が飾られている境内

境内左手の手水舎には、龍ではなく「牛」の像が

神輿殿。例大祭では本社神輿の他、13基の町内神輿も
3時間近く「ヨコタ」で練り歩く

大田区唯一の富士塚「羽田富士」は昭和50年代頃まで
信仰の習俗が残っていたとか


「ヨコタ担ぎ」(羽田神社例大祭町内神輿連合渡御のポスターより)

 暑い夏がやってきた。夏の風物詩といえば花火大会や、新しいところでは「夏フェス」などが定着してきたが、やはり「祭り」は欠かせないだろう。
  京急大鳥居駅東口から10分弱、産業道路を多摩川方面へ進んだ右手、大師橋の手前に「羽田神社」がある。「ヨコタ担ぎ」という独特の神輿の担ぎ方をする「羽田まつり」で有名な神社だ。
 
  羽田神社は今から約800年前の鎌倉時代、羽田浦の水軍で領主だった行方与次郎(なめかたよじろう)が牛頭天王を祀ったのがその起こりとされている。牛頭天王はインドの祇園精舎の守護神で、神道の「スサノオノミコト」と同一視されている。牛頭天王は疫病にご利益があるとされ、江戸時代の文久年間に天然痘が蔓延した折、13代将軍・徳川家定が牛頭天王社(現羽田神社)に病気平癒祈願に参詣したこともあるそうだ。

  境内左手にある手水舎には、他の神社でよく見かける水の守護神・龍ではなく神社の縁起にあやかり「牛」が置かれている。神社の御祭神も須佐之男命(スサノオノミコト)とその妻の稲田姫命(イナダヒメノミコト)だ。羽田空港が近いこともあり、旅行前に航空安全祈願に訪れる人や、航空関係者の参拝も多いとか。
 
  羽田神社の夏季例大祭は、毎年7月最後の週末に行われている。通称「羽田まつり」は、城南随一の賑わいで、神輿の担ぎ手だけでも3千人、見物客は3万人が訪れるという。
  神輿の担ぎ方は日本各地に様々な流儀があるようだが、漁師町であった品川・大田近辺は城南担ぎ(ちょいちょい担ぎ)といい、小波に揺れる舟のように小刻みに神輿を振る。その中でも羽田の「ヨコタ担ぎ」は、神輿を左右90度に倒し、右の人が跳ね上がると左の人がしゃがむということを繰り返しながら進む。境内に貼ってあったポスターにもその勇壮な「ヨコタ担ぎ」の写真が掲載されていた。
 
  境内にはポスターだけでなく提灯なども飾られ、年に一度の例大祭へ向けた準備が着々と進んでいる感じだった。そんな祭り準備で盛り上がる雰囲気の中、境内を奥に進むと、社殿の左側にひっそりと富士塚があった。富士塚は、富士山の信仰団体である富士講の人たちが、実際に登れない人のために富士山を模して築いた人工の小山。富士山の代わりに富士塚を参詣する習俗は、江戸時代中期の安永年間ぐらいから、関東を中心に起こったと言われる。羽田神社の富士塚は俗に「羽田富士」と呼ばれる。明治初年に築造され、頂上には浅間神社が祀られたり、登山道があったり、富士山と同じ構造になっている。大田区で唯一の存在であることから、大田区文化財に指定されている。

■羽田神社  大田区本羽田3-9-12  ウェブサイト

(2017年8月掲載)  地図


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