小さな散歩道

池尻稲荷神社 (世田谷区池尻2丁目)



  東急田園都市線の池尻大橋駅南口を出て、そのまま首都高速道路を右手に見上げながら、国道246号の歩道を三軒茶屋方面に歩く。こんな首都高と高層ビルの谷間に本当に神社があるのかと少々不安になりながらも、そのまま地図を信じて直進すること5分、池尻交差点の角に、鳥居と、神社に奉納された赤い提灯が見えてくる。そこが「池尻稲荷神社」だ。
  入口は2ヶ所あり、246号側の鳥居をくぐり参道を行くと、反対側の旧大山道側の小さな鳥居まですぐにに到達してしまう。こじんまりした神社だが、繁華街の渋谷に近いためか、平日でも参拝客が訪れる。中には外国人観光客らしき人もいた。

 せたがや百景にも選ばれている同神社には、涸れずの井戸として有名な「薬水の井戸」がある。どんなに日照りが続いても涸れたことはなく、大正時代の大変な渇水の年に付近の井戸がみな涸れてしまった時でも個々の井戸は涸れなかったとか。
  また、昔の大山街道筋には赤坂一ツ木村からこの池尻村まで飲用水がなかったので、地元の農民だけでなく、往来の人たちにも頼りにされた井戸だったそうだ。江戸時代には本来の大山阿夫利神社への雨乞い詣としてより伊勢神宮や富士山詣の代わりに近場の大山を参拝するということで、大山講は人気があったという。参拝者で賑わう街道筋の涸れずの井戸は、大勢の旅人の喉を潤したことだろう。

  残念ながら今は、井戸は残っていないが、水脈は建材で、神社の参道脇にある手水舎の水は「薬水の井戸」の水脈から引いているそうだ。手水舎の前には「水神社」が鎮座する。水の神様であるヘビがお祀りされている。小さな祠に蛇の絵馬が飾られていた。

 かつて旧大山道側の鳥居の脇にあった井戸があったところには、女の子と男の子が「かごめかごめ」をして遊んでいる銅像が立っている。銅像の後ろに井戸の説明プレートがある。

 池尻稲荷神社の宮神輿は、台座に施された彫刻が美しいことで有名とのこと。宮神輿は隔年で行われる例大祭の時に運行される。

 明治24年に騎兵第一大隊の兵舎ができてから、池尻は軍事地域になった。太平洋戦争中は空襲で多くの家が焼失してしまったが、神社は2本のケヤキの木によって風向きが変わり、焼失を免れたと言われている。

(2016年4月掲載)  地図


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