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二子玉川駅西口から徒歩7分。にぎやかな駅周辺を少し離れると、緑の多い住宅街になる。この辺りは八十八坂七曲といわれるほど起伏がある。確かに今でも坂道は多く、道端には道標や坂の名前やその説明のプレートが設置され、かつて大山道としてにぎわった往時がしのばれる。 大山道は大山街道とも呼ばれ、特に江戸時代中期以降、大山詣り(相模国、現在の神奈川)が盛んだった頃に最もにぎわった。
坂の上にある行善寺は、浄土宗の古刹。室町時代の永禄年間(1558-69)に北条氏家臣の長崎伊予守重光父子がこの地に移住した際に建てたそうだ。
旧大山道に面している入口から入って少し内側にある山門は、獅子山の山号が銘記されてとても味がある。左手にある観音堂の前には「成田山分教會高津村二子新盛講中」という石柱が立っていて、これも山岳信仰の大山詣りの名残か?などと思いを巡らした。
境内には、ひときわ目立つ三ツ又のヒノキが繁っている。特に説明はなかったが、保存樹に指定されていて、相当古いものなのだろう。境内左手奥にひっそりと猫塚が立っていた。かつてこの辺りは観光地で、特に多摩川で捕れる鮎は人気だった。シーズンには川沿いの料亭や屋形船で鮎料理を楽しむ客が多かった。そんな歓楽街で、芸者さんが弾く三味線の材料になった猫をお祀りしているのだそうだ。塚の脇には三味線のバチをかたどった石碑も。
高台にある行善寺境内からの眺望の良さは「行善寺八景」とも呼ばれ、江戸時代には徳川将軍もあまりの美しさにしばしば立ち寄ったといわれている。だが、今はというと、残念ながら住宅街が広がっていて多摩川すら見えなかった。冬の空気のきれいな時は雪をかぶった富士山の頭が遠くに見えると地元のおばあちゃんが教えてくれた。
(2015年7月掲載) 地図
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