小さな散歩道

熊谷恒子記念館 (大田区南馬込4丁目)

 「眺めがよくて落ち着いたいいところ」と読者の方からご紹介をいただき訪問。 都営地下鉄浅草線西馬込駅から歩いて10分、閑静な住宅街の坂の上に大田区立熊谷恒子記念館があった。
 同記念館は現代かな書道の第一人者だった熊谷恒子先生(1893-1986)が生前住んでいらした家を改修し、 1990年に開館した。今年で開館20周年になる。
 庭に面している2つの展示室では、ちょうど「かなの美展 熊谷恒子の書〜流麗なるかなの軌跡〜」が開かれていた(6月20日まで)。 展示は年代を追って初期の「土佐日記」から、晩年の「よし野山」(山家集)作品を主に18点。
 恒子先生は京都の代々医者の家に生まれ、祖父の江馬天江は医者、書家、詩人として知られる。 恒子先生が本格的に書道を始めたのは、子供の書道のけいこに付き添ったのがきっかけで、35歳という遅いスタートだった。 尾上紫舟、岡山高蔭に師事し、平安朝の古筆に根ざした独自の境地を開いた。 昭和40(1965)年皇太子妃美智子さま(現皇后陛下)へのご進講も務め、現代かな書の至宝と言われた。 自分に厳しく、一日として筆を持たない日はなかった。93歳でお亡くなりになる9日前に書いた「ありがとう」と「うれしいこゝろ」が絶筆になった。
 蒲田から来た、最近書道を始めたという60代の男性は「すばらしい。優雅ですね」とただただ感嘆していた。
 一階奥の記念室は元書斎で、恒子先生の仕事場であり、生徒さんに教えていた教室だ。 先生が使っていらした筆、硯、文鎮などが展示してあり、書道愛好家には興味深い。
 二階は資料室と資料閲覧室で窓からの眺めは抜群、遠くまでよく見える。
 静かな同記念館で流れるような筆致、空間にただよう気品を味わいに行ってみませんか。

■熊谷恒子記念館 (大田区南馬込4-5-15)
問合せ/TEL 03-3773-0123
開館/9:00〜16:30(入館は16:00まで)
休館日/月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始 (展示替えなどで臨時休館あり)
入館料/16歳以上:100円、6歳以上:50円 、65歳以上と6歳未満:無料

(2010年3月掲載)  地図


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