小さな散歩道

新大田区百景「六郷神社」  (大田区東六郷3丁目)

神門 源頼朝が寄進したと伝えられる手水石(現在は使用していない)

神橋。梶原景時寄進と伝えられている太鼓橋 ユーモラスな狛犬(こまいぬ)に会いに六郷神社に行った。京浜急行六郷土手駅下車、徒歩10分弱。立派な神門をくぐり、社殿で手を合わせる。ゆったりとした敷地、風格のある佇まいに格式の高さを感じる。
 同神社は六郷一円の総鎮守として広く崇敬されている古い八幡宮だ。天喜5(1057)年源頼義、義家の父子が、この地の大杉に源氏の白旗を掲げて軍勢をつのり、石清水八幡に武運長久を祈った。すると、士気が大いに奮い、前九年の役(陸奥の豪族を鎮圧した戦い)に勝利を収めたので、凱旋後、その分霊を勧進した。これが、六郷神社の創建と伝えられている。 源頼朝もまた奥州征定の時、祖先の吉例にならい、白旗を立てて戦いの勝利を祈願した。梶原景時に命じて社殿を造営した。現在、社宝の雌獅子頭(めじしがしら)と境内の浄水石は、この時に頼朝が奉献し、景時は神門前の太鼓橋を寄進したそうだ。
現在の社殿の前に立つ威厳のある狛犬 社殿前に一対の狛犬があったが、髪を振り乱して辺りを威嚇する形相だ。唐獅子風でどこもユーモラスではない。犬を連れて散歩に来きていたお年寄りに聞くと、社務所前の庭にあると教えてくれた。大田区教育委会による解説によると、貞享2(1685)年、六郷中町の有志が願主となり、現世と来世の二世の安楽を祈って奉納したとある。石工は三右衛門で、昔は社殿前にあったそうだ。
 ずんぐりした短い胴に大きい顔。へこんでいて大きな目、扁平で大きな鼻、口は大きく裂けている。尾は小さく、髪は短く刻みは浅い。左側のは角があり、口を閉じているが、右側のは角はなく、口を空けていて、狛犬の吽形(うんぎょう)、阿形(あぎょう)の形式は踏んでいるが何ともユーモラスで、じっと見ていると物悲しげにも見えてくる。漫画魔「笑ゥせェるすまん」の主人公にどこか似ているという人もいるが、じっと見ていると「ウン、どこか似ている。納得」。どうも狛犬の役目である「魔よけ」にはなりそうも無いですね。
 「素朴で味わいのある狛犬です。太田区内では一番歴史のある狛犬ですが、都内では、赤坂見付にある氷川神社の次に古い狛犬です。平成25年の伊勢神宮の行事の式年遷宮の関東圏用のポスターにこの狛犬の写真が採用され、大変光栄に思っています」(六郷神社禰宜=ねぎ=鈴木祐一さん)
 1月7日の流鏑馬(やぶさめ=東京都無形民俗文化財)、6月上旬の日曜日に行なわれる例大祭では勇壮さで知られる宮神輿(みこし)や少年少女による獅子舞(大田区無形文化財指定)などが見ものだ。六郷緑地を左に見ながら多摩川の土手を歩いて駅に向かった。  

■ 問合せ/六郷神社 TEL:03-3731-2889

(09年9月掲載)  地図


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