しごと日記Q&A編

  自転車で配達している人もいるんですか?
(2010年4〜7月号掲載)

(その1)  当ASAでは、1人で約300部の朝刊配達をしています。 販売店から出発し、およそ2時間半以内で読者の皆様が出勤される前に届けられるように地域割りをし、部数を調整しています。 集合住宅だけをアルバイトが自転車で配達している地区もありますが、時間的問題から、ほとんどの地区はバイクで配達をしています。 そんな状況ですから自転車で配達している社員はほとんどいないのですが、数ヶ月だけ自転車で配達した人の話を紹介します。

 数年前、免許証は持っていないが配達の仕事をさせてほしいという18歳になったばかりの人が応募してきました。
 「新聞の配達は何時間かかっても終われば良いというわけではなく、毎日決まった時間に届けないといけない仕事なので、 バイクで配達をしないとむずかしいです。免許を取ってから応募してください」と対応した店長は断りました。
 翌日、また同じ人が来ました。「親は免許を取ってバイクを運転することに反対しています。 どうせ続かないだろうとも思っているようで、2ヶ月がんばれたら免許証を取ることを認めるといわれています。なんとか仕事をやらせてください!」
 その熱意に店長は負け、「わかった。販売店から近くて平坦な場所じゃないと無理だろう。 とりあえず自転車でどこまでできるかやってみよう」ということになりました。
 そんなわけで、自転車で配達することになった新人君の苦労話を次回紹介します。

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(その2)  前号で、「免許証は持っていないが、とりあえず自転車で配達の仕事をさせてほしい」と粘り強く店長に頼んで、めでたく採用となった18歳の新人君の初出勤です。

新人君「おはようございます!!今日からよろしくお願いします!!!」
店 長「おはよう!よろしく。しかし声がやたらとでかいな……」

  元気いっぱいで初出勤した新人君と店長の様子を見ていきましょう。

店 「うちの店では、1人で約400部の朝刊をバイクで配達している。出発から2時間半以内で配り終わるように地域割りをし、部数を調整している。でも君は自転車だ。バイクと同じメニューでは無理だろうから、販売店から近くて平坦な場所の“特別コース”で少しずつやっていこう」
新 「自転車だからって甘やかさないで、みんなと同じメニューでやらせてください!」
店 「だめだ。400部の新聞は想像以上に厚くて重い。一度に積める量は、バイクだと150部、自転車だと100部がいいところだ。バイクだと3往復で自転車だと4往復だ。バイクより40〜50分位よけいに時間がかかることになる。そんなのんびりとやっているわけにはいかないんだ」
新 「じゃあ、その“特別メニュー”でお願いします」
店 「“メニュー”じゃないよ。“特別コース”だよ。『ファミレス』で注文しているんじゃないんだから……」
新 「あはっ、店長おもしろい!」
店 「おれは別におもしろくない。さあ、始めるぞ!」
新 「はいっ!」
店 「とりあえず自転車に新聞100部積んで店の周りを一周しておいで」
新 「はい、行ってきま〜す」
 「がしゃっ」という音がするので振り向くと……新人君は自転車の下敷きになっているのでした。すぐに起きて走り出しますが新聞が重くてフラフラです。
  はたして配達が始められるのでしょうか?――次号に続く。

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(その3)  自転車に積んだ新聞が重くてフラフラしながら配達を始めた新人君。 18歳と若いだけにさすがに覚えは早く、すぐにコツをつかみましたが、どうしてもバイクでの配達より時間がかかってしまいます。
 一番の原因は、自転車を止める動作です。バイクは頑丈なサイドスタンドを右足で路面に下ろすだけで止められますが、自転車はそうはいきません。 自転車は車体が軽く、サイドスタンドだとバランスが悪くて倒れてしまうため、ついていないことが多いのです。 自転車を真後ろに「ヨイショ」と引っ張って止めるスタンドをいちいち立てていると時間がかかりすぎてしまいます。
 場所にもよりますが、前かごとハンドルの間に電柱などをかませるような形で立てかけるとうまく固定できます。
 新人君もこの方法を教わりましたが、なかなかうまくいかず、仕事が終わってから何度も練習を繰り返していました。 2週間位すると、特訓の甲斐もあって止め方も上手くなり、時間も短縮できるようになってきました。
 配達を始めてから初めて雨が降りました。こうなると、いつもと勝手が違ってきます。 電柱にかませたハンドルがすべったりして上手く止められません。晴れている時と同じスピードで走れず焦ります。 焦ると自転車が倒れます。倒れると、積んでいる新聞は水たまりへ……。
 泣きそうになってかき集めていると、後ろで手伝ってくれている人がいました。「派手にやっちまったなあー」という声は、心配で後ろからついてきていた店長でした。
 「雨が降っただけでこれほど思い通りに行かなくなるとは思いもしませんでした」と落ち込む新人君に店長は言いました。
 「立派にやってきているじゃないか。おれは毎日練習して苦労しながらやっているのを見てきた。失敗して悔しい気持ちや反省する気持ちがあるなら大丈夫だ。自転車での配達は限界がある。バイクの免許が取れるよう、両親に一緒に頼みに行ってみるか」
 「はいっ。ありがとうございます!」
  ――立派に成長した新人君でした。

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 (その4) 雨の中で泣きそうになりながらも、2ヶ月間、自転車で配達をしてきた新人君。最初は採用を断った店長も、がんばりを認め、バイクの免許を取ることに反対していた新人君の両親に一緒に頼みに行ってみることになりました。
  まさか店長が一緒に頼みに行ってくれるとは思いもしなかったと思いながら実家の親に頼みに行くと、「2ヶ月がんばったらという約束だったからな」と拍子抜けするくらいあっさりと免許を取ることを認めてくれました。帰り際、「しっかりと本を読んで勉強しないと原付の免許だからといって簡単には受からないぞ」と父親に言われました。
  店長に運転試験場まで連れて行ってもらい、マークシートに答えを記入するのはいつ以来かな……とか思いながら、50点満点中45点以上で合格する試験を終えた新人君の結果は3点足りずに不合格……。
  迎えに来た店長は、あまりに落ち込んでいる新人君を見て、「明日もう1回受けにこよう」と少しだけ励ましました。その後、父親に不合格だったことを沈んだ声で電話すると、「それくらいで落ち込んでいたら面倒を見てくれた店長に申し訳ないだろう。受かるまで何度でもやれ。がんばれ!」と言われた。反対していた親から予想外の言葉を聞き、目が覚めた新人君は、間違えた問題を徹底的に勉強しました。
  猛勉強のかいもあり、2回目の試験で念願の免許証を取ることができた新人君は、改めてまわりの人たちに感謝したのでした。

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