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多摩都市モノレールの柴崎体育館駅を出て南へ向かうと、1分もしないうちに根川緑道に入る。流れの両岸に植えられた桜の木はこの日、すでに満開に近く、その下ではグループや家族連れが思い思いにお弁当を広げ、酒を酌み交わす姿もチラホラと。
流れに沿って下流へ行くと、間もなく新青梅街道の下を通るトンネルになる。流れも暗渠になっているようだ。トンネルをくぐって出ると開けた場所に出た。「霧の広場」らしい。ここら辺にあるはずだと思って周囲を探すと、花見客が乗って来たらしい自転車の群れに囲まれ、それはあった。
茶色の砂岩製だろうか。高さ50センチほどの碑には白い文字で、
多摩川のあさき流に石なげてあそべば濡るるわが袂かな 牧水
とあった。牧水(明治18年8月24日〜昭和3年9月17日)は「旅の歌人、酒の歌人、恋の歌人」と呼ばれ、立川周辺にもゆかりがあるそうだから、この歌を残したのだろう。他の作品に「多摩川の 砂にたんぽぽ咲くころは われにもおもふひとのあれかし」という歌もあるそうだ。友人である石川啄木の「一握の砂」とともに明治末期の歌壇の主流となっていたとのこと。そういえばこの根川緑道の上流には、牧水の妻である若山喜志子の歌碑も建てられていた。
満開の花の下、ひっそりと建つ歌碑は、世の喧騒など知らぬげに孤高を保っていた。
(2006年5月号掲載) 地図
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