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多摩モノレール柴崎体育館駅を降りて新奥多摩街道の立日橋北交差点を左に曲がり、「錦町下水処理場前」を右へ歩いた。モノレール駅から8分ほど。舟の形をした、黒っぽい石像を上に載せた石碑が静かに立っていた。
石碑の表には、「日野の渡しの出来たのはいつの頃だか誰も知らない 江戸時代中期の貞享年間 この地に渡しが移されたことは確かであろう」とあるから、起源は相当古いのだろう。碑文にはさらに「信濃甲斐相模への人々はこの渡しを過ぎると遠く異境に来たと思い江戸に向かう人々は江戸に着いたと思ったという」と彫ってあった。まさに国境(くにざかい)の様相を呈していたようだ。
大振りなこの石碑に遠慮するように、何歩か離れて立つ小型の石碑があった。「多摩川の渡し跡なるわが住まひ 河童ども招いて酒酌まむかな」とあるから、この近くに住んでいた詠み人も河童も、相当いける口かな、なんて考えるのもちょっと楽しい。
数メートル離れた桜の木の下には、高さ50センチほどの茶色っぽい石の碑が立っていた。まだ新しい感じの碑面にはくっきりと「日野の渡し場」と彫られていた。その脇には「旧甲州街道」の看板もある。今、車が激しく行き交う表の大通りを少しはずれたこの横道が、かつては旅人でにぎわう歴史的な街道の跡であることを、思い起こさせてくれた。
(2007年5月掲載) 地図
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