小さな散歩道

丸子の渡し跡 (大田区田園調布本町)

 
 

東急多摩川線の沼部駅を出て、徒歩約2分、多摩川の土手に出た。 土手に上ると眼下に広がるのは河川敷の公園だ。真夏の照りつける太陽の下、 公園では家族連れや若者のグループが三々五々、ビーチパラソルなどを広げ、食事や会話を楽しんでいる。
  石段を下りて公園に入ってみた。芝生や植え込みはあるが、日陰になりそうな大木はない。 「渡し跡」というと、たいていは石碑などがあるので、それらしきものを探してみたが、見当たらない。 川の水際まで下りたが、やはり見つからない。土手に戻って、草むらを探し歩いたが、状況は同じだ。
  そこで土手に最も近い国土交通省の事務所の人に尋ねてみた。その人は先になって公園に下りて行く。 後について行くと、その入り口にある小さな説明板を指し、「これだけです」と教えてくれた。 そこには「大田区文化財 丸子の渡し跡」と書かれていた。
  それによると丸子の渡しは沼部と上丸子とを結ぶ多摩川の渡しで、古くは「まりこのわたし」ともいった。 中世以来の渡し場だそうだが、江戸時代になると中原街道が整備されて物資の搬入に利用され、 昭和9年(1934年)丸子橋が完成するまで、江戸東京の玄関口としての大きな役割を果たしたという。
  説明板から200メートルほど先には新幹線の橋があって、ひっきりなしに流線型の車体が行き交っていた。 その昔、ここを小舟で行き来していた時代から見ると想像も出来ないような、時の流れを感じさせる光景だった。

(07年9月掲載)  地図


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