しごと日記 Q&A

 新人らしき人が新聞を積んでいないバイクで家のポストに触っていく姿を見かけました。配達の練習をしているのですか?
(2009年10月号〜12月号掲載)

その1 入社したての人は、まず配達用の原付バイク「カブ」の運転練習から始め、なんとか乗りこなせるようになると、次は「順路取り」という作業をします。これは、以前紹介した新聞配達の虎の巻である「順路帳」(読者名・新聞名・順路記号・ポストの種類や場所などが書かれている)をもとに、先輩に付いて1ページ目の家から順を追って配達先を説明されていく作業です。
  この作業が終わり、「どうだ、簡単だろう」とY先輩に言われ、思わず「はいっ」と答えてしまった新人のM君。約300軒の家のポストを説明されたが、覚えられる自信がない……。
  好評?の「YMコンビ」でこの先の作業を見てみましょう。

Y 「さあ、これから空(から)まわりだ」
M 「なんですか?それ」
Y 「配達する家のポストを一軒ずつ確認しながら、最初から最後の家までを順番にまわることだ」
M 「今やりましたよね」
Y 「1回だけで覚えられるはずがないだろう。手を抜かないで何回も空まわりすれば自然と配達する家が覚えられるようになる」
M 「となりの家の山本さん、四叉路を右に曲がって3軒目の藤田さん、三叉路を左に曲がった田中さん……、表札を確認したが表札がない……」
Y 「表札がない家もある。その時は次の家の表札と手前の家の表札をチェックして正しい家を確定するんだ」
M 「順路帳には赤ポストと指定してあるのでこの家に間違いない。よしっ次だ。あれっ、今度は吉田さんの家が見つからない」
Y 「家が見つからない時は元に戻って順路記号を再度確認して探すんだ」
M 「そうか、左に曲がるところを右に曲がっていたのか」

――3時間後。
M 「空まわりしてきました」
Y 「おう、お疲れさん。3時間でひとまわり出来たなら優秀だ」
M 「えっ、ほんとですか。良かった〜」
Y 「今日はこれで終わるが、明日は朝9時から日が暮れるまで空まわりだ」
M 「はいっ、がんばります!」

――実際に配達に出るまでには、こうした作業を繰り返しているのです。

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その2   前号に引き続き、Y先輩と新人のM君のコンビの様子を紹介します。

 「配達する全軒のポストに手でタッチしてくる『空(から)まわり』を日が暮れるまで繰り返し行う」と、朝9時にY先輩に言われ、「配達するポストがわかれば日が暮れるまでやらなくても配達は出来るのになあ……」と疑問を感じつつ、空まわりを始めたM君。
  バイクに何も積まないでポストにタッチしていく作業を繰り返していると、「何をしているんだい?」と、庭で植木いじりをしているおじいさんに不思議そうに聞かれ、「今度この地域を配達する新人のMです。配達するポストを間違えないように手でタッチしています」と先輩に言われたとおり説明した。
  今日は4回、空まわりをした。ひとまわりする時間も1時間半で終わるようになったことを先輩に報告すると、「じゃあ明日の夕刊から配達してみよう」と言われた。
  翌日の夕刊で初めて配達をした。空まわりを充分にして、配達する家のポストがわかっていると思っていたのに、時々探している自分を感じた。後ろからずっと着いてきてくれた先輩に「空まわりが足らんな。家のポストをしっかりタッチしなかっただろう」と言われ、つい手を抜いていた自分を恥じた。
  配達が終わってから再度、空まわりを数回やってみて、配達は頭で行うのではなく、五感で行うことがわかってきた。「次の家は山本さんで、3軒目の黒いポストに配達する」と、頭で配達するのではなく、「遠くから黒いポストを見て、バイクが近づくにつれてポストが大きくなってくる」という風景で配達する感覚がわかってきた。

 「まじめに空まわりしないと朝刊の配達はさせられないぞ」と先輩に言われ、「はいっ!」と気合が入ったM君でした。

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その3  当ASAでは、1人で約350軒の朝刊の配達を2時間半以内に終わるように地域割りをしていて、その時間内に終わるようになるまではサポートが1人付いています。
  新人のM君は、入店して7日目に初めて朝刊の配達が始まりました。
  「いいか、真っ暗だから気をつけろよ」と先輩に言われて一緒に出発し、半分は手伝ってもらうことになりました。
  M君は、『空(から)まわり』の練習を何度もしましたが、昼間と同じ場所なのに朝刊の時間は真っ暗で景色が違うことにビックリしました。家を見つけるのに時間がかかっているのに、突然、ヘルメットに巻きつけている懐中電灯が消えてしまった。真っ暗になってしまい、配達先が記入してある『順路帳』が見えなくなってしまいました。どうしていいかわからずに先輩に電話すると、「バイクのヘッドライトで照らせばいいんだ」と言われました。行き先をヘッドライトで確認しながら何とか終わらせましたが、全体の半分を配達するのに2時間以上かかってしまいました。
  販売店に戻ると、すでに待っていた先輩に「真っ暗で大変だったろう。だけど、事前の準備が何より大事なのがよくわかっただろう。配達の半分を1時間半以内で終わるようにならないと合格点は与えない」と言われたM君。
  配達は、「バイクを止める、順路帳で新聞の種類を確認して新聞を抜き取る、ポストを確認する、ポストの形状に合わせて新聞を折る、新聞をポストに静かに入れる、バイクに戻る」という作業の繰り返しです。先輩とM君の大きな違いはこの一連の動きです。
  先輩に「おれの動きをよく見て覚えろ」と言われてきた意味が少しわかってきたM君なのでした。

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