小さな散歩道

向宿の子持ち地蔵 (昭島市福島町2-27)


衣で子どもを覆っているのか、子どもの姿は見えない

お地蔵様の足元に備えられていた湯呑
(お地蔵様の絵が描かれている)


赤い布をまとった向宿子持ち地蔵

 立川駅南口から「新道福島」行きのバスに乗り、終点で下車。バス通りの新奥多摩街道から「昭島市福島町一丁目」の交差点を右折し左手に伸びる道を進んでいくと、住宅街の一角に小さな祠が建っていた。こちらが「向宿の子持ち地蔵」のようだ。

 「向宿」とはこの辺り一帯の通称地名であり、宝暦12(1762)年の造立。このお地蔵様は子どもが大好きで、古来より赤ん坊の夜泣きや夜尿症、病気などに霊験があるといわれている。言い伝えによると、かつて近所の子どもたちがお地蔵様を持ち出し、祠の北側を流れる用水路「中沢堀」で遊んでいると、それを見ていた大人に「お地蔵様を粗末にしてはいけない」と叱られてしまった。だが、お地蔵様は「せっかく子どもたちと仲良く遊んでいたのに、一人ぼっちにさせた……」と、悲しんだのだという。なんとも微笑ましい言い伝えのあるお地蔵様だ。

 祠の中にまつられたお地蔵様は赤い着物をまとっていて、赤ん坊を抱いているという「子持ち」の姿は見ることができないが、帽子を被った小さなお地蔵様は今にも子どもたちと遊びに出かけそうな雰囲気だ。子どもにご利益があるということで、この日は小さな子どもを連れたお母さんがやってきて、熱心にお地蔵様に願掛けをしていた。

 住宅街にひっそりと鎮座するお地蔵様だが、近隣の人々からは慕われているのだろう、祠はきれいに管理されており、お地蔵様の足元にはお地蔵様の姿が描かれた湯飲みとお菓子が供えられていた。

 
(左)広福寺。手前に大賀ハスの鉢植えが見える  (右) 市指定天然記念物「広福寺の大松」

 かつて子どもたちがお地蔵様と遊んだという「中沢堀」を渡ると、道の突き当りに広福寺が見えてきた。境内に入ると、本堂の手前に古代ハス「大賀ハス」が並んでいた。よく整備された境内は緑も豊かで、大変気持ちのいい空間となっている。また境内では、樹齢500年と推定される黒松(市指定天然記念物)が伸びている。「広福寺の大松」とも呼ばれる立派な黒松は、幹周り約3メートル、樹高が約18メートルあり、かつては多摩川対岸からも見ることができ、目印にもなっていたそうだ。

(2022年10月掲載)  地図


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