小さな散歩道

桜坂 (大田区田園調布本町)

  「願はくは 花の下にて春死なむ……」と西行法師も詠んだように、日本人が桜に特別な情感を持っているのは、誰しもが認めるところ。テレビ番組を通じて、福山雅治の歌で全国的に有名になったというその桜の名所が、読者の皆様のお住まい近くにあるのを、すでにご存じでしょう。そこで、五分咲き間近という風の便りを耳にし、出かけてみました。

  ASA東調布の裏を通り、東急多摩川線沼部駅方面へと向かう、やや細めの道が旧中原街道だそうだ。この道を歩いて約5分。「さくら坂上」という交差点に達した。そこから始まる下り坂の、両側の土手に植えられた桜並木は、ピンク色の花がすでに咲き誇っている。
  枝は道路の上に覆いかぶさるように伸びているので、ピークには「花のトンネル」となるに違いない。坂の手前に高さ70センチほどの四角い、古い石碑があった。表に「さくら坂」、横に「昭和五年五月」と彫ってあり、桜並木が植えられ、名前が付けられた時期を示しているようだ。道の反対側に立つ、木目模様の標識には「桜坂(さくらざか)」と、黒々とした字が彫りこまれている。
  その標識などによると、桜坂はその昔「沼部大坂」と呼ばれ、傾斜がきついため、荷車などの通行は大変という難所だった。大正時代に街道の改修を行って道幅を広げるとともに、切り通しにして傾斜を緩くした。昭和初期には道の両側に桜並木を植えたのが、「桜坂」の名の由来になったそうだ。
  坂の途中にあって道路をまたぐ赤い歩道橋は、カップルや夫婦連れでいっぱいだ。携帯電話やカメラで、花を写す人たちもいる。
  この特集が出る頃には、花は満開になり、さぞかし人々でにぎわうことだろうと思った。

 

(08年春発行)  地図



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