しごと日記Q&A編

  配達中の失敗談などを教えてください。
(2012年12月号掲載)

  新聞配達に使う「順路帳」(10cm×25cmくらいの大きさの手帳のようなもので、中に書かれている順路記号を読み解きながら配達する必需品)には、めったに使わない記号もあります。
  配達順路を示す「順路記号」には、>(路地右曲がる)、<(路地左曲がる)という記号があります。バイクで入っていけないような住宅密集地や商店街などで、バイクを降りて歩いて配達場所に向かうことを示した記号なので、配達エリアによってはめったに使いません。
  ある雨上がりの日に、思いがけず、この記号のあるエリアを配達することになった従業員の話をひとつ紹介します。

  新人のK君は、朝刊の配達の途中でバイクのタイヤがパンクして転倒してしまいました。販売店からは近いエリアだったので、急いでバイクを押しながら店に戻ると、ちょうど配達を終えて戻ってきたS先輩が、「残りの配達を手伝ってやるよ」と言ってくれました。
  S先輩は担当者が休みの日に配る「代配」になったばかりで、K君のエリアは部分的にしか配ったことはありませんでした。K君は少し心配でしたが、S先輩が「その場所なら順路帳さえあれば大丈夫だよ」と言うので、残っている商店街エリアの配達を手伝ってもらうことにしました。
  「あっ、先輩、路地に入る場所の水たまりに……」とK君が言いかけたとき、S先輩は「大丈夫だよ。任せろよ」と言いながら出発してしまいました。
  しばらくして、「いやぁ、まいったよ」と、ずぶ濡れのズボンでS先輩が店に戻って来ました。「<」や「>」の順路記号が出てくる場所を配達するのは初めてだったらしく、「この記号、何の意味だっけ?」と、新聞を持って暗闇をうろうろしているうちに、路地の真ん中にある大きな水たまりで尻もちをついてしまったのでした。
  雨上がりの午前5時。人の話は最後まで聞こうと、改めて思ったS先輩でした。

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