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立川駅北口のペデストリアンデッキ下のバスターミナル。ここに明治に活躍した歌人・若山牧水(明治18年〜昭和3年)の歌碑が建っている。
碑には『立川の駅の古茶屋さくら樹のもみぢのかげに見送りし子よ』と刻まれている。この歌は牧水が明治39年(1906)に、奥多摩への旅の途中、立川駅前で休憩した時に詠んだ作品だ。歌の意味は、当時駅前にあった桜の樹が、秋も盛りに赤い枯れ葉を茂らせていて、その木陰の茶店の縁台で、食事を済ませて出かけようとすると店の子が見送ってくれた、というものだ。
かなり大きな石碑であるが、すぐそばには横断歩道、碑の先にはバス乗り場があり、人がせわしなく行き交う場所だ。以前から「何の碑だろう」と思っていたが、気づかずに通り過ぎてしまう人も多いかもしれない。
歌碑は昭和25年(1950)に建てられたもので、駅前開発の際には移転させる話もあったようだが、駅前で詠んだことを尊重して、今もここで立川の変遷を見守っている。
また、多摩モノレール柴崎体育館駅近くに伸びる根川緑道にも、牧水ゆかりの歌碑が設置されている。
柴崎体育館駅東側の「霧の広場」には『多摩川の浅き流れに石なげてあそべば濡るるわが袂かな』という、近くを流れる多摩川にちなんだ歌碑がある。ここには水辺近くに降りられるデッキがあり、ベンチも備えられている。緑豊かな広い水辺では、水面を優雅に漂う鴨やコサギなどをゆったりと観察することができる。
緑道を少し外れた立川公園には、牧水の息子・旅人の歌碑が公園西側の入口にある。碑には『霧にこもれる多摩川いつか雨となり芽ぶく楊もぬれはじめたり』とあった。こちらも多摩川ゆかりの歌だ。また、緑道上流部の湧き出し口には、牧水の妻・喜志子の歌碑もある。
立川市は根川緑道を中心としたエリアに「詩歌の道」を整備しており、他にも高村光太郎など、立川にゆかりのある作家の詩碑・歌碑が多く建てられている。緑溢れる静寂の中を、文学に触れながら散策するのもおすすめだ。
(2015年2月掲載) 地図
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